地面に蒼色の髪が広がる。
白い肌は土だらけで所々擦りむいていた。
少女は激しい頭痛に耐えながら立ち上がろうとする・・・・
しかし、胸までせりあがってくる吐き気によってそれは阻止された。
息使いは荒く、膝をつくのがやっとだ。
彼女は涙に濡れた瞳をきつく閉じながら呻いた。
助けて・・・・だれか!!
第十三章 〜時の一座〜
サクラと一緒に首都をでたリョウは東を目指して歩いていた。
途中で深い森を抜けてようやく辿り着いたのは小さな街・・・。
「わー、レノールだね。懐かしいなぁ!」
サクラが思わず歓声を上げた。
「以前来たことがあるんですか?」
「うん、2年位ここにいたんだ。仕事でさぁ。」
サクラによるとここ、レノールは首都と東の地方を結ぶ中間点の街らしい。
そのおかげでいろいろな文化が交じり合っているのだ。
レオナがどこにいるのか、リョウは知らない。
ただ、彼女はリョウと別れて東に向かった。
だから、東にある街を順にあたってみることにしたのだ。
・・・・途方もない作業と言われればそれまでだが。
「ここにはね、旅一座もよく来るんだぁ。旅一座は主に東の地方に多くいるから。
歌ったり踊ったり。楽しいよ。」
なるほど、街の至るところに飾り付けられた馬車があるのはその為か・・・。
リョウはそう思って周りを見渡した。
馬車には沢山の飾りがつけられている。
カラフルな鳥の羽や、金や銀の飾り物・・。
それらはキラキラと輝いていて立派だった。
こんな大きな飾りをぶらさげておいて泥棒に盗まれたら大変だろうな・・・
なんて余計なことを考えてみたりする。
「リョウ君!見てみて!!」
サクラがリョウの肩をバシバシと叩く。
つられて彼のほうを見ると広場の中心に人だかりが出来ていた。
人波を掻き分けていくと中心には一つの旅一座の馬車があった。
装飾も一番立派で大きな馬車だ。
人々を見てみると皆わくわくした表情を抑えきれないようだ。
中には花束を持った若者たちもいる。
「早く、見てえよな〜!」
「ああ!!あの子の歌と踊り、最高だぜ!!早く始まらないかなぁ・・・。
俺、人目見たときからあの子のファンなんだよ!!」
花束を持った若者たちの声が聞こえる。
「あのぅ、この旅一座って・・・?」
思わずリョウは近くにいた男に尋ねた。
「旅の人かい?
これは‘時の一座’っていって数ある旅一座の中でも最も有名な旅一座なんだよ。
歌も踊りもとてもレベルが高くてね。
ここの一座の歌や踊りを見るとこっちも元気をもらえるんだ。
特に、踊りは群を抜いていてね。 是非、君も見ていくべきだよ!
若者達なんか、その踊り子の虜でさぁ。まぁ、気持ちは分からんでもない・・・。なんたってあの踊りは・・」
その時、馬車から一座の団長らしい、若い男が出てきて男の話は打ち消された。
民族衣装らしい衣服を身にまとっているその男は年齢は30代前半。
団長にしては若い。
「皆さん! お集まりいただいて、本当にありがとうございます!!
私は時の一座の団長であるレインと申します。短い時間ですが皆さんの楽しい時間となりますよう!!」
よく通る声でそう言うと、
その声を合図に馬車の中から色鮮やかな衣装をまとった男女が出てきて歌いだした。
軽やかなメロディーだ。
ここに来るまでいくつかの一座の公演をちらっと見てきたが、なるほど確かにレベルが違う。
歌のハーモニーも、ダンスも細かいところまでバッチリ決まっている。
犬や猫といった動物も現われた。
動物も胸にリボンや花を飾って可愛らしい。
花を籠いっぱいに持って出てきた女達が観客に花を配り始めた。
初めて一座を見るリョウは唯ぼうぜんとしていた。
人々の熱気がすごい・・・。
だけど・・楽しい。
こんなにわくわくしたのは久しぶりだ。
ステージも後半にさしかかったのだろうか・・・。
ひときわ大きな歓声が上がった。
花束を持った若者達も一斉に声を上げる。
どうやら彼らの目的はこれのようだ・・。
「皆さん!お待たせしました!! 我らが時の一座が誇る一番の踊り手。
ルカ・ネオタールの舞をどうぞ、お楽しみください!!」
すると、今まで表に出てた人々は馬車に戻り、代わりに一人の少女が現われた。
年齢は16〜7で
真っ白なドレスのような衣装を身にまとっている。
少女はにっこりと微笑んで音楽に合わせて歌いだした。
柔らかなメロディーに合わせてゆっくりと舞う。
『遠い暗い星空を見上げて、貴方はどこに進むのでしょう。
数々の時の歴史、貴方はどこまで知っているのでしょう。
いつか、この世界が暗く閉ざされてしまっても、どうか貴方は暗闇に輝く一つの星となりますように・・・。』
天使の舞・・・。
リョウはそう感じた。
彼女の口から紡ぎだされる歌声は魂を洗い流されるような美しさで、柔らかな舞は水の流れを思い出させる。
彼女の舞を見ていると心が穏やかになっていくようで、不思議な安堵感がリョウの心を満たした。
他の観客も同じらしく、皆彼女の歌と舞いに見とれている。
周囲から雑音はなくなり小さな伴奏のハープの音色と彼女の歌声だけが世界を流れているように思えた。
舞が終わり、彼女は両足を揃えて人々に向かって一礼した。
とたんに割れんばかりの拍手が沸き起こる。
リョウも慌てて拍手した。
まるで、夢から覚めたみたいだ。
「すごいですねっ!! サクラさんあの子! 僕、鳥肌立っちゃいましたよ!! あんな踊り始めて見た!!」
「うん。僕も今までいろんな踊り手を見てきたけど、あんなに上手な子は初めてだなぁ・・。」
サクラも感嘆の声をもらして拍手する。
少女は観客に向かってにこやかに手を振る。
彼女には沢山の花束が渡されていた。
ふと、少女と視線が合った。
にっこりと少女が微笑む。
穢れを知らないような、穏やかな笑顔。
つられてリョウもにっこり笑った。
一座の公演が終わるとリョウとサクラはベンチに座り、一息ついた。
まだ、体の中をさっきの熱気が渦巻いている。体がまだ火照っている。
「まだ、ドキドキしてます。僕。」
リョウは胸を押さえて呟いた。
またあの歌を舞を、もう一度見たい。
また、会いたい。
「はい、リョウ君。ドキドキしてる最中悪いんだけど・・・。」
サクラに言われてはっと我に返る。
そう、ここへは観光に来たわけではないのだ。
もう一人の歯車の、レオナの居場所を探す為・・・。
・・・・といっても。
「手がかりナシ。ですよね?」
「そうだねぇ。」
余りにも知らないことが多すぎる・・・。
名前と容姿。
それから、「超能力」を使うこと・・。
彼女について知ってるのはそれだけなのだ。
せめて・・・もう少し彼女といろんな事を話すべきだった。
後悔の念が渦巻く。
といっても、彼女が話してくれるとは限らないのだが・・・。
レオナは用心深い。
「あ。」
「? どうしたの?リョウ君。」
「鳥。」
「??」
「彼女! 鳥を連れていたんです!!」
そう。彼女といつも一緒にいたあの鳥。
たしか名前はクロード・・・。
レオナは何故かあの鳥を大事にしていた・・。
自分の命すら顧みず。
ZEROの手下だってそうだ。
あの鳥は普通の鳥ではないと言っていた。
そこに・・・何かあるような気がする。
金色の羽にグリーンの瞳。とても珍しい鳥だ。どこにでもいるような鳥じゃない。
その鳥の生息地にレオナの故郷があるのでは!?
「・・・・・なるほどねぇ。」
サクラはリョウの意見を聞いて少し考えているようだ。
「金色・・・・グリーン・・・命がけ・・・。」
ふと、彼の瞳に微かに動揺の色が混じった。
・・が、眼鏡のせいでリョウには分からない。
「・・・もしかして、その鳥は・・。」
「・・・サクラさん?」
「いや、なんでもないよ。じゃあ、図書館に行ってその鳥について調べないとね。」
「はいっ!!」
そう言って2人が腰を浮かせた時だった。
サクラが不意に、空を見上げた。
「? サクラさん?」
「リョウ君・・・広場に行こう。」
「え?」
サクラの銀色の髪が風もないのに揺れる・・・。
空にうっすらと黒い影が見える・・・。
あんなに晴れていた青空が、急に暗くなる。
背中が冷たくなるような感覚・・・。
この感覚を彼は知っている。
「ZEROの手下だ。」